株式会社テマヒマは、社員を雇わない会社として12年目に入りました。今年、初めて社員を雇いました。人間ではありません。
AIです。実際に業務を任せてみて、期待どおりだったことと、はっきり期待外れだったことがあります。経営者の方に役立つのは後者だと思うので、両方書きます。
なぜ12年間、人を雇わなかったのか
理由は2つあります。マネジメントコストが高すぎること。そして、社員に依存した組織は常にリスクを抱えることです。
ここは正直に書いておきます。100年続く企業を作ろうとするなら、会社を支える人材を雇い、育てなければいけません。それをやらないと決めたのは、テマヒマが「私個人がやりたいことを、やりたいようにやる会社」だからです。だから社員がいなくても成立してきました。
これは経営として正しい選択だと主張したいわけではありません。会社の目的によって、雇うべきかどうかは変わる。ただ、雇わないと決めた結果として、私はマネジメントというものを12年間ほとんど外注してきた、とも言えます。
AI社員が消してくれたもの
AIを社員として迎えて、雇用にまつわるコストのほとんどが消えました。オフィスはいりません。給与はお小遣い程度です。体調も崩さないし、メンタルケアもいりません。
そのうえで、実際にこの数か月で作ったものを並べます。
Xの投稿を自動生成して投稿する仕組み。日本ランディングページ協会のサイトと講座スライド(構成からライティングまで)。LPO事業の顧客管理システム(申込から面談設定、リマインドまで自動化)。ランディングページの分析ツール(URLを渡すと分析と改善案が出る)。改善テストの構成案を出すツール。原稿と素材を渡すと記事型ページができるツール。GA4からBigQuery、Looker Studioまでの分析基盤。メルマガを各媒体向けに書き分ける仕組み。AIの新情報を渡すと、必要に応じて自社の環境を更新する仕組み。
これまで手が回らず放置していた業務を、整理して、自動化する。その繰り返しです。生産性は確実に上がりました。実際、受けられる仕事の量は明らかに増えています。
ここまでが期待どおりだった部分です。
消えなかったもの
消えると思っていて、消えなかったものがあります。マネジメントです。
AIを導入したのに忙しさが変わらない、という話をよく聞きます。理由ははっきりしています。AIに仕事を任せているのではなく、AIと一緒に仕事をしているからです。
毎回説明する。毎回修正する。毎回考える。これを続けている限り、考える時間は多少短くなっても、自分が動き続けることは変わりません。作業が速くなっただけで、仕事の構造は何も変わっていない。
本当に変わるのは、AIが考え方を覚えたときです。言い換えると、プロンプトではなく、判断基準を渡したときです。
どういう順番で考えるのか。何を優先し、何を切り捨てるのか。どこまでなら自分で決めてよくて、どこからは確認が必要なのか。それを渡せて初めて、壁打ちの頻度が下がります。
これは人間の部下とまったく同じ構造です
書いていて気づくと思いますが、いま述べたことはAIに固有の話ではありません。人を雇ったときに起きることと、まったく同じです。
毎回説明しないと動けない部下。指示どおりにはやるが、判断が必要になると止まる部下。それは多くの場合、本人の能力ではなく、判断基準が渡されていないことが原因です。
「AIのアウトプットは質が低い」と言う人がいます。しかしその多くは、考え方も、作業の工程も、判断の基準も渡していない。超優秀な部下を使いこなせていない上司と同じ状態です。
だからこう言えます。AIは、組織の問題を解決してくれません。経営者が自分の判断基準を言葉にできているかどうかを、容赦なく露出させるだけです。曖昧なまま人を雇えば曖昧な組織ができるのと同じように、曖昧なままAIを入れれば、曖昧な自動化ができあがります。
期待外れだったこと
ここは正直に書きます。AIが考えて実行するところまで来れば、人間のやることが減って余裕が生まれる。私はそう思っていました。
実際には、余裕は生まれませんでした。
AIが作業を進めているあいだ、私は別の仕事をしてしまうからです。空いた時間が余白にならず、次の仕事で埋まる。以前なら受けられなかった量の仕事に対応できるようになったのは進歩ですが、結局ずっと働いている状態は変わっていません。
できないこともあります。画像や動画の生成は、まだ自動化しきれていません。型を作ってクライアントごとに素材を出せるようにしたいと考えていますが、現時点ではやり取りしながら進めています。
導入を検討している経営者に伝えたいのは、ここです。AIは「楽になる道具」ではなく、「キャパシティが増える道具」です。増えたキャパシティを何に使うかを決めていなければ、忙しさは減りません。これも結局、判断の問題です。
人件費が「費用」になっている会社へ
この話は、自社だけの話ではありません。
多くの企業にとって最大の支出は人件費です。そして人件費は、多くの場合投資ではなく費用になっています。誰でもできる仕事をこなすために人を雇っているからです。判断を必要としない仕事に人を配置し、判断を必要とする仕事を経営者が抱え込む。この構造の会社は、地方にも都市部にも数え切れないほどあります。
誤解のないように書いておくと、私は人を減らすべきだと言っているのではありません。仕事の中身を入れ替えるべきだと言っています。判断のいらない仕事を任せられる先ができたのなら、人には判断のいる仕事に移ってもらえばいい。会社が儲かれば、報酬を上げる根拠もできます。
ただし、ここでも前提は同じです。どの仕事に判断が必要で、どの仕事には必要ないのか。それを経営者が線引きできなければ、入れ替えは起きません。ツールを買っても、現場は今までのやり方を続けます。
結局、渡せるものしか任せられない
12年間、私は人を雇いませんでした。マネジメントのコストを払いたくなかったからです。そしてAI社員を雇って分かったのは、そのコストは形を変えて、そのまま残っていたということでした。
相手が人でもAIでも、渡せるものしか任せられません。渡せるのは、言葉になっている判断基準だけです。頭の中にあるうちは、誰にも渡せない。
AIの導入で差がつくのは、ツールでも予算でもありません。経営者が自分の判断を、どこまで言葉にできているかです。