同じ広告アカウント。同じ管理画面。同じ数字。それでも、成果が伸びる会社と伸びない会社に分かれます。
20年この仕事をしてきて、その差が「情報量の差」で説明できたことは一度もありません。持っているデータはほとんど同じです。差がつくのは数字の読み方――もっと正確に言えば、数字を何に使っているかです。
成果が安定しない会社には、共通する症状が4つあります。
症状1|数字を「足切り」にしか使っていない
昨日のCPAが3,000円。今日は5,000円。それだけで広告を止める。数日後にまた別の広告を入れて、しばらくして、また止める。
この動きを繰り返している限り、成果は安定しません。判断のたびに学習が積み上がらないからです。
数字は、判断するための材料であって、判断そのものではありません。見るべきは「なぜその数字になったのか」です。クリエイティブなのか。ランディングページなのか。ターゲットなのか。訴求なのか。配信面なのか。
数字を見ているマーケターはたくさんいます。しかし、止めるか続けるかの線引きにしか使えていない人が、驚くほど多い。同じデータを見ていて成果に差が生まれるのは、ここです。
症状2|不安を「打ち手の数」で埋めている
相談を受けていて分かるのは、成果が伸びない会社ほど「何をやるか」を増やそうとすることです。Instagramもやろう。YouTubeも始めよう。広告も増やそう。LINEも作ろう。
どれも間違いではありません。ただ、成果を出している会社は順番が逆です。やらないことを先に決めている。
今年はこの媒体だけに集中する。新しいサービスは増やさない。ランディングページは1本を徹底的に磨く。やることを減らすと、改善の回数が増えます。改善の回数が増えると、精度が上がります。結果として売上が伸びる。
マーケティングは「いろいろやる競争」ではありません。「何に集中するかを決める競争」です。他社の動きを取り入れ続けて、どれも中途半端になっている会社は本当に多い。まず、自分たちがどこで勝つのかを決める。圧倒的に勝てる局面をひとつ作れれば、そこから次の勝ち筋につながります。
症状3|「目を引く」と「刺さる」を混同している
先日、電車の中で猫の写真を大きく使った広告を見かけました。ペットホテルか、迷子猫を探すサービスか。そう思って一度は通り過ぎたのですが、改めて見ると解体工事を手がける工務店の広告でした。
猫のビジュアルは、確かに目を引きます。しかし、ただ目を引くだけです。猫と解体工事のあいだに脈絡がない。猫好きの人が「かわいいな」と反応して終わりです。しかもその広告には、本業ではなさそうな事業まで並べて書いてありました。見込み客を集める広告ではなく、ただの自己紹介になっている。高い名刺代を払っているようなものです。
注目を集めること自体は必要です。見られなければ存在しないのと同じですから。ただし注目は目的ではなく、仕組みの入口にすぎません。目を引いた後、その人がどこへ進むのか。そこが設計されていなければ、注目は費用にしかなりません。
症状4|表面を模倣している
うまくいっているやり方を真似るのは、改善の常套手段です。売れている商品の機能を真似る。売れている広告のクリエイティブを真似る。その情報収集自体が、マーケターの仕事の一部になっている会社もあります。
しかし、目に見えているものをそのまま真似ても、同じ成果は出ません。
マーケティングは仕組みだからです。見込み客が顧客になるまでのシステムであり、複数のプロセスが連なって、全体として成果を生んでいる。その一部だけを切り取って持ってきても、同じようには動きません。
正しい真似方があります。売れている要因を分解して、その構造のほうを使うことです。その機能は、誰の、どんな課題を、どう解決しているのか。その訴求は、誰に、どこで、何を伝えているのか。点ではなく線で見て、仕組みの中でそのプロセスがなぜ機能しているのかを見極める。そこまでやって初めて、自社に移植できます。
4つに共通していること
並べてみると、症状はすべて同じ構造をしています。点に反応しているのです。
目の前のCPAという点。打ち手の数という点。目を引いたかどうかという点。他社の見えている部分という点。どれも、線で――つまり仕組みとして――見ていない。
点に反応する判断は、速く見えて実は遅い。毎回ゼロから考え直すことになるからです。構造で判断する人は、一度考えた基準を次の判断にも使えます。判断の速度が上がるのは、情報が増えたときではなく、基準ができたときです。
では、判断軸はどう作るのか
広告の世界には「広告費の半分は無駄だ。ただし、どちらの半分かは分からない」という古い言葉があります。これは諦めの言葉ではなく、前提を示した言葉だと私は考えています。
半分が無駄になることを織り込んだうえで、では残りをどう扱うか。私が経営者に勧めているのは、予算の2割を「まだ確かめていないこと」に回し続けることです。同じ媒体で、似たクリエイティブを、決まったタイミングで出し続けている限り、事業は安定しても成長はしません。
ある調査では、広告を止めた翌年の売上は平均で16%、2年で25%、3年で36%落ちるという結果が出ています。市場環境や企業の状況によって大きく変わるので、あくまで参考値として見るべき数字ですが、傾向としては納得のいくものです。買い手に知ってもらう機会が減るのですから、当然といえば当然です。
この数字を知っている大企業は、広告を止められません。止められないから、やらなくてもいい広告を惰性で続けることになる。安定と引き換えに、更新する力を失っていきます。
ここで補助線を1本引いておきます。「広告を出しても売れない」という相談を、私は数え切れないほど受けてきました。しかし正確には、広告で売れないのではありません。広告で生まれた接点と、購入とのあいだに道が作られていないだけです。商品を知りさえすれば買ってもらえる、というのは、売り手側の思い込みです。興味を持ってもらい、信用してもらい、決断してもらう。その流れがなければ、接点は接点のまま終わります。
打ち手ではなく、構造を見る
施策は、もう世の中に溢れています。知らない打ち手はほとんどないはずです。それでも売上が安定しないなら、原因は手法の不足ではありません。判断がぶれていることです。
同じ数字を見て判断が分かれるのは、能力の差でも情報の差でもなく、数字の使い方の差です。足切りに使うのか、構造を読むために使うのか。その一点で、翌年の景色が変わります。
打ち手を増やすフェーズは、もう終わりです。次は、判断で差がつくフェーズです。